世界史教室

大学受験生のための世界史問題解説

過去問センターワンフレーズ論述参考書疑問

東大世界史対策

*[過去問]*[東京大学]

東大世界史対策

 <1>問題分析・論述の構造から

 (1)広い地域・時代を描かせる、というのが第一の特色といえます。空間的に広いことは、世界全体を網羅するような問題が多いことです。たとえば、パクス・ブリタニカへの組み込みと対抗(2008)、第二次世界大戦と戦後史の関連(2005)、16〜18世紀銀の世界経済史(2004)、運輸・通信手段の発展による植民地化と民族意識(2003)、第一次世界大戦前後の帝国解体過程の相違(97)、「パクス=ブリタニカ」の展開と衰退(96)、「モンゴルの世紀」の拡大過程・衝突・融合(94)、主権国家体制の新展開(アメリカ大陸、東欧、東南アジア)(92)、10〜17世紀の西アジアの政治体制の変化、同時期の西欧、南アジアの政治体制の変化(91)、第一次世界大戦中・後の大衆的政治運動(90年)、1894〜1910年の反帝国主義運動(85年)という具合です。

 まとまった地域の長い時間の歴史を書かせることも特色です。たとえば、オランダの世界史的役割(2010)、エジプト5000年史(20001)、前3世紀から紀元15世紀末にいたるイベリア半島史(99)。18〜19世紀のアメリカ合衆国とラテンアメリカ諸国(98)。南イタリアのギリシア人植民史(97)。ローマ帝国成立から1453年までの地中海世界の文明(95)。ヴェトナムとドイツ分裂国家の形成から統一の過程(93)、18世紀半ば〜19世紀半ばの中国・西欧通商関係の推移(89)。7〜19世紀前半までのヨーロッパとイスラム世界の交渉・勢力関係(86)。

 つまり、世界史らしい時間的にも空間的にも広くて長いテーマを出題しているということであり、どれも良問ぞろいです。教科書のあちこちにバラバラに書いてあることを、編集する能力を見ようとしています。東大のこうした過去問を内容だけ模倣しただけか、あるいは瑣末なことにのめり込んだ予備校の模試は受験してもあまり意味がありません。東大の過去問自体をよく学ぶことのほうが得策です。受験出版社や予備校の解答は問題の構造がつかめていないため、非論理的な解答で、それを堂々と公表して売っています。たいていは教科書外の詳細な知識や用語をつかって書いたカンニング答案で、ワシはこんなに知ってるぞと誇ったペダンティック(知識のひけらかし)なものです。受験生が受験場で書けるはずもない「できすぎた(?)」そうした解答ばかりみならうと、いつまでたっても進歩しません。このホームページにある解答と見比べてみればそれが判明するでしょう。

 (2)構成的な要求が目立っています。構成的とは、たんに知っていることを闇雲に書けというのではなく、あるテーマに沿って、与えられた語句を使い、論述の文章全体をこう組み立てよ、という要求です。むつかして表現でいえば論理的であることが要求されます。次のような一つの筋を追わせる流れ、結果、影響、関連、特徴、変化、比較、理由、意義などです。これらの問題用語(要求)にあわせた(論理的な)文章構成が必要です。

 (a)流れ(過程/変遷/発展という問題用語で問われているもの)

85 第2問(C)15・16世紀のインド洋を中心とする東西交通史上の重要事件について(120字) 

88 第2問(C)トルコの国家と社会の近代化をめざして行なった改革

89 第1問 西ヨーロッパ諸国と中国との通商関係の推移を(360字) 

90 第1問 ヨーロッパとアジアにおける大衆的な政治運動の展開について(600字)

90 第2問(B)15・16世紀のインドでは、宗教・思想の面で色々の新しい重要な展開(120字)

93 第1問 ヴェトナムとドイツの二つの分裂国家が統合されている。この二つの分裂国家の形成から統合への過程を、冷戦の展開と関連づけて略述せよ。(600字)

93 第2問(B) ネーデルラントが反乱を起こしてから、独立を宣言するまでの経過に、宗教上の争いがどのように関係していたかを(150字)

94 第2問(C) 中華人民共和国成立後1950年代末までの中国の農村経済政策について(90字)

95 第1問 ローマ帝国の成立からビザンツ帝国の滅亡に至るまで、地中海とその周辺地域では、どのような文明がおこり、また異なる文明の間でどのような交流と対立が生じたのか(600字)

95 第2問(C) 18世紀なかばから1947年までのベンガル地方の歴史(120字)

96 第1問 「パクス・ブリタニカ」の展開と衰退の歴史(600字)

99 紀元前3世紀から紀元15世紀末にいたるイベリア半島の歴史はどのように展開したのだろうか。その経過について

04 第1問 16〜18世紀銀の世界経済史(480字)

04 第2問 ユダヤ教史(120字)

 (b)結果

92 第2問(A) 17世紀に、オランダとイギリスはアジアにおいても香辛科貿易をめぐって抗争したが、その抗争を示す事件の名称とその事件の結果(90字) 

92 第2問(B)  1651年にクロムウェルは航海法(航海条令)を発布したが、その航海法の目的と結果とを(90字)

92 第2問(C) 七年戦争の時期に、イギリスとフランスは新大陸およびアジアで植民地をめぐって抗争したが、その抗争の経緯と結果(150字)

92 第2問(D)1806年にナポレオン1世は大陸封鎖令(ベルリン勅令)を発布したが、その大陸封鎖令の目的と結果(90字)

 (c)影響

83 オスマン進出の東・西欧への影響 

86 第2問(A) ウィーン体制の成立は、南北アメリカにいかなる影響を(150字) 

02 第1問 19世紀から20世紀はじめに中国からの移民が南北アメリカや東南アジアで急増した背景には、どのような事情があったと考えられるか、また海外に移住した人々が中国本国の政治的な動きにどのような影響を与えたか(450字)

03 運輸・通信手段の発展が、アジア・アフリカの植民地化をうながし、各地の民族意識を高めたことについて(510字)

11 第1問 イスラーム文化の受容・発展・影響(510字)

 (d)関連

85 第2問(B) 14・15世紀の朝鮮における支配層について、当時の思想動向に関連させながら(90字)  

86 第1問 19世紀の前半にいたる両者(キリスト教圏とイスラム教圏)の交渉や勢力関係の歴史を(600字)

87 第3問(B)(3) イベリア半島の中世史は異文化間の摩擦と交流と混淆の歴史(120字)

94 第1問 モンゴル帝国の各地域への拡大過程とそこにみられた衝突と融合について、宗教・民族・文化なとに注目しなから論ぜよ。(600字)

01 第1問 「1)エジプトに到来した側の関心や、進出にいたった背景、2)進出をうけたエジプト側がとった政策や行動」の両方の側面を考えながら、エジプトが文明の発祥以来、いかなる歴史的展開をとげてきたかを概観せよ。

05 第1問 第二次世界大戦と戦後史の関連(510字)

06 第1問 三つの戦争の助長と抑制(510字)

 (e)特徴(特色)

89 第1問 明朝末期から清朝前期にかけての時期のイエズス会士への対応と、清朝末期の洋務運動とを例にとり、中国がヨーロッパ文化を受容するにさいして示した態度の特徴を(240字) 

90 第2問(C) オスマン帝国は16世紀に最盛期を迎えるが、この時期の軍事制度の特徴、ならびに領内の非イスラム教徒への対応について(120字) 

91 第2問(D) 会館や公所とよばれる組織が発達した。この組織の特色と役割(90字)

 (f)変化

86 第2問(C) 民族運動の内部には戦争後期から戦後にかけて大きな変化が(150字)

88 第2問(A) 孫文が、晩年においてこの国民革命の基礎を固めるために行なった政策転換を(120字)

88 第2問(B) インド民族運動の性格、目標、参加者などの点で異なっていた。インド国民会議結成当時との比較を念頭において、1920−30年代のインドの民族運動や大衆的な運動について

(120字)

91 第2問(A) 春秋時代の半ばから戦国時代にかけて、……この時期の漢族の拡大に関係する技術上ならびに経済上の主要な変化を(90字)

91 第2問(C) 南方での人口増加に関係の深い技術上ならびに経済上の変化を、解答用紙に3行以内で述べよ。(90字)

94 第2問(A) 18世紀イギリスでは、農村社会に大きな変化が起こり、それが工業化にも一定の影響を与えた。この変化について(90字)

94 第2問(A) ロシア……1860年代はじめから1910年代末までにこの国でとられた代表的な農村社会変革の政策について(150字)

95 第2問(B) 1870年代に朝鮮および琉球にとって日本との関係が政治的にどのように変動したのか、その内容を(120字)

 (g)比較

87 第1問 朝鮮戦争とヴェトナム戦争の原因・国際的影響・結果について、両者を比較しながら(540字)

88 第1問 17世紀から19世紀初頭にかけて、さまざまな変革が生じたが、それらの変革の様相は地域によってそれぞれ異なっていた。……両革命を比較し、それぞれの革命の特色を……プロイセンの改革の特色、アメリカ独立革命に関し、ヨーロッパにおける諸変革との比較(600字)

90 第2問(A) 高麗王朝が滅んで新王朝が興り、およそ1世紀間のうちに最盛期を迎えた。この新王朝の名を挙げ、当時の思想・文化上の特徴につき、高麗王朝のそれらとの比較をも念頭において(120字)

91 第1問 西アジアを中心にして、これに続く10世紀から17世紀にかけてのイスラム世界における政治体制の変化を簡潔に述べ、次いでこれと対比しつつ同時代の西ヨーロッパ世界、南アジア世界における政治体制の変化を略述せよ。(600字)

92 第1問 三組の地図に示された変化の特色に注目して、主権国家体制がそれぞれの段階でいかなる新しい展開を示したか(600字)

97 第1問 旧来の帝国の解体の経過とその後の状況について、とくにそれぞれの帝国の解体過程の相違に留意しながら(450字)

98 第1問 18世紀から19世紀末までのアメリカ合衆国とラテンアメリカ諸国の歴史について、その対照的な性格に留意しつつ、ヨーロッパ諸国との関係や、合衆国とラテンアメリカ諸国との相互関係のあり方の変化を中心に(450字)

09 第1問 国家と宗教と個人の関係における特徴比較(600)

12 第1問 植民地政策と独立運動の差異(540字)

13 第1問 17〜19世紀米大陸での開発・移動・軋轢の差異(540字)

 (h)理由

86 第2問(B)中国・インドからの労働力の移動が増大した。その理由、移動先、ならびに従事した仕事の内容について(150字)

87 第2問(A)宋学は、後世の中国歴代王朝で儒教の正統な学派とされ、また近隣諸国でも官学として受けいれられていった。その理由(120字)

87 第2問(B)仏教が大部分の社会に深く根をおろすこととなった。その理由(120字)

87 第2問(C)キリスト教徒・ユダヤ教徒・ゾロアスター教徒などがイスラム教徒の支配を進んで受けいれるということがしばしば見られた。その理由(120字)

87 第3問(C)⑻ スペイン内乱は、第2次世界大戦の前哨戦であるともいわれている。その理由を、内乱にかかわった諸陣営を念頭において(90字)

  (i)意義

85 第2問(A) 中国の科挙制の意義は、その開始から明代に至る間にかなり変化した。この変化について、この間の社会の動きを念頭におきつつ(210字) 

00 第1問 18世紀の時代背景、とりわけフランスと中国の状況にふれながら、彼らの思想のもつ歴史的意義について(450字)

7 第1問 11世紀から19世紀までに生じた農業生産の変化とその意義(510字)

10 第1問 オランダの世界史的役割(600字)

 

<2>対策

 1.年号をおぼえましょう。

  論述に年号なんて、と馬鹿にするなかれ。時間的に空間的に長く広い問題を出してくるので、いつ・どこでという基本的な事項があたまに入っていないと、受験場でパッパとデータを確信をもって書けません。「世紀」という用語が上に編集した過去問例でも、24個あります。「年代」が5つです。「いつ」の歴史かがハッキリしていないと要求されていない世紀・年代のことも書いてしまいます。

 そしてある世紀を見ても、他の地域ではどんなことがおきていたか、の同時代の視点も必要です。年号をおぼえることのなかに、一つのできごとに一つの年号、というおぼえかたをしないで、できるだけ同年代のものは一緒におぼえましょう。1038年ならセルジューク=トルコと西夏の成立、1402年なら永楽帝・アンカラの戦い・フスの宗教改革、1661年ならルイ14世・康熙帝・イギリスのボンベイ獲得・万有引力、1894年なら甲午農民戦争・日清戦争・ドレフュス事件とおぼえましょう。『世界史年代ワンフレーズnew』(パレード)を薦めます。

 教科書の巻末についている年表をコピーしてつなぎあわせ、一枚の掛軸とし、机の前に張っておきましょう。あるいは主にしているテキストの間にはさんでおきます。年表はたんにタテに見るものでなく、ヨコで見るということを学んでください。

 2.地図をみながら教科書・参考書・問題を読みましょう。

 これも同時代のできごとを全体として見渡しておくために必要です。同時期にどういう国が隣り合わせになっているのか、外交・戦争・宗教対立・交流をさがしましょう。

 3.95年以前の600字問題を450字でちぢめて書く練習をしましょう。

 600字なら指定語句を説明しながら書けたものが、450字ではその余裕がありません。それでいながら、450字の問題が、600字の問題より内容が小さくなったのか、というと全くそんなことはありません。問題自体は内容が以前と変らず濃いのです。縮小して書く練習が是非とも必要です。第2問・第3問とちがい、第1問の論述は詳しいことを書かなくていいのですが、それよりいかにできごとを抽象化・一般化して簡潔に表現するかの「まとめの能力」が要求されます。拙著『世界史論述練習帳new』の「基本60字」で練習してください。あるいは、教科書の一節(約700〜1000字)を100字以内にまとめる練習をしてください。その一節全体が示している文明のありようや変動をつかまえるつもりで。

  東大は歴史の政治的流れよりも、文明・文化・民族・国家・経済をひとかたまりとして描かせようとします。よく問題のこうした要求を読んで政治史に偏りがちな書き方を改める努力をしてください。

 4.過去問を解きましょう。

 学習の進度によってちがいますが、過去問を解く時間は必要です。まだとても世界史全体を学んでいないので、というひとは私大の問題を解くことを10月までやりつづけても、いやひとによっては1月のセンター試験まで、それでもいいというか、そうしなくてはならないひともいます。しかしその後は、過去問を解きましょう。カンニングしまくって解く。拙著『東大世界史解答文』(電子書籍パブー)が参考になります。歴史用語一つ一つより、文章全体の構成と流れがどうなっているかに特に注意して、他の解答例(赤本やネットの解答)と見比べてみてください。過去問はできるだけ古いもの、10〜20年前のものをやった方がいいです。

 できたらその答案をだれかに、先生に友達に見てもらいましょう。なんでも思いつくまま答案について言ってもらいます。相手を殴らないように ! そんな機会がなければ、書いた答案を2〜3週間棚上げしておき、忘れた頃にもう一度、問題を読み直し、問題要求を確かめてから、答えが要求をどれだけ満たしているか確認しながら点検します。次第に時間も本番にあわせて解くことにしていく。

 添削の希望者は次をみてください。→ここ

 5.私大の過去問・模試の空欄・穴埋め問題が第2・第3問対策になります。

 年度によってちがいますが、最近10年の第2・第3問は易しくなりました。ほぼセンター試験レベルといっていいものです。東大の配点は受験生の答案と開示点数を見比べてみると、第1問が24〜30点、第2問が20〜26点、第3問が10点と読み取れます。2012年のように第3問を20点配点にしたこともあり、設問の変化と難易によってフレキシブルではあります。第1問がある程度取れなければ高得点が望めないのは明らかです。ただ、第1問が難問であるため、第2・第3問で稼いでおくことが必要です。これは通常の学習とセンター試験対策の勉強がそのまま反映します。

 これらの例で判るように、構成的に文章をつくる練習が必要です。