世界史教室

大学受験生のための世界史問題解説

過去問センターワンフレーズ論述参考書疑問

一橋世界史1980

【1】次の文章を読んで下記の問いに答えよ。(合計300字以内)
 アメリカ大陸では,14,5世紀にアステカ(アズテック),インカという二つの帝国がつくられ(ア)高度な文明を発達させたが,16世紀はじめにスペインによって征服された。スペインがこの征服によりこの地方からヨーロッパヘもたらした大量の金・銀は,(イ)価格革命とよばれる経済変動を生ぜしめ,またスペインが原住民を奴隷としてつくりあげた大農場は,スペインのあとを追ってカリブ海地方へ進出したイギリスによってプランテーションとしてひきつがれ,北アメリカ南部へもひろげられて,(ウ)イギリス資本主義確立の一つの柱となった。
(ア)この文明の内容を説明せよ。
(イ)この経済変動はどういう影響をもたらしたか。
(ウ)プランテーション制がイギリス資本主義確立の一つの柱となったというのはどういう意味か。

【2】19世紀初頭から第1次世界大戦に至る時期において,フランスとアメリカ合衆国はラテン・アメリカの歴史にいかなる影響を及ぼしたか,具体的に記せ。(300字以内)

【3】インド・中国・朝鮮のうち任意の1国について、その国の歴史上の人物1名を選び,その人がどのような時代にどのような仕事をしたか,世界史の流れに位置づけて略述せよ。(300字以内)

問題についてのコメント

【1】(ア)文明の「内容」という課題ですから、できるだけ具体例をもりこんで説明してくれ、という要求です。「アステカ(アズテック),インカ……高度な文明」 とあるので両文明に共通する点をあげてもいいし、書けるようなら二つの文明を分けて書いてもいいでしょう。けっこう教科書には説明がありますから易問といっていいでしょう。 
(イ)この経済変動は「価格革命」ですから、それが「どういう影響を」ということです。革命の内容説明は要らないのです。「影響」だけでいいのです。換言すれば銀の価格革命が下落したことと物価の騰貴はヨーロッパにどんな影響をもたらしたのか、という問です。  詳説世界史ですと「定地代の収入で生活する領主は打撃をうけた。西欧諸国では商工業が活発となる一方,エルベ川以東の東ヨーロッパ地域は西欧諸国に穀物を輸出するため,領主が輸出用穀物を生産する直営地経営をおこなう農場領主制(グーツヘルシャフト)がひろまり,農奴に対する支配がかえって強化された。ヨーロッパにおける東・西間の分業体制の形成は,その後の東欧の発展に大きな影響をあたえた」と。ここには東欧の影響があげてある点が特色をもっています。  三省堂では「固定地代に収入の大半をたよっていた封建貴族を没落させ、封建社会の崩壊をいちだんとすすめることになった。 その一方で、企業家的な商工業者が成長し、イギリスなどの国ぐにでは毛織物工業が勃興して、資本主義社会の形成が準備されることになった。経済の中心が大西洋岸諸国に移ると、東ヨーロッパは西ヨーロッパから毛織物やぜいたく品を輸入し、穀物を輸出する地域となった。」と。西欧・東欧の双方とも詳説世界史と似た記述ですが、「資本主義社会の形成」に言及しています。  詳説世界史なら「価格革命は、旧来の固定的な地代収入にたよっていた封建貴族を没落させ、企業家的な商工業者層を成長させた。この結果、封建社会の崩壊がいっそう進み、資本主義の形成が準備されることになった」と。  このように16世紀の価格革命と商工業の発展が資本主義のスタートになったという点を確認しておきましょう。 
(ウ)この問題で分かりにくいのは「イギリス資本主義確立」という語句です。「一つの柱」は役にたったということですから、この語句が理解できれば容易です。この語句の意味は産業革命です。資本家と労働者によって生産する方式を資本主義(資本制生産様式)といいます。資本により工場・機械・賃金を用意できたのは資本家であり、肉体(労働力)を提供して賃金をもらう賃金労働者がいて、機械に使用される人間というものが産業革命になってハッキリ登場します。資本家は生産するためのすべてをもち、労働者はせいぜい肉体しか出せない、という関係です。かつて人間のほとんどは農民であり、自前のものであれ借りているのであれ、土地と道具をもって生活(生産労働と利益と消費)ができました。ところがこれらの生活のための土地・道具をもたない人間(賃金労働者)が産業革命によって大量にできてきました。  ま、こうした資本主義のこむずかしい定義は本来問われませんが、知っているものとして問われます。プランテーション制はもちろん原料(棉花、原料のばあいは綿花と糸偏をつかわず木偏でもいいです)の供給がありますが、それだけではないことに注意です。このプランテーションで利益をあげた植民者たちが、本国に帰って工業に投資し、預金をし、土地を買って貴族の仲間入りもしました。ジャマイカ・ジェントリー、カルカッタ・ジェントリーと言われたものです。   産業革命を実現するためには、資本(これを蓄えることを資本蓄積といいます。16~18世紀の時期が蓄積期間です)・労働力・原料・市場・法的な競争の自由などが必要です。プランテーションは資本・原料・市場を提供します。
【2】時間が「19世紀初頭から第一次世界大戦に至る時期」とあれば、1801~1914という数字をタテに書いて、その上でデータをメモするというのが基本的な作業です。この作業をすると抜けおちているところも分かるでしょう。「例えばコントの実証主義やユーゴーらのロマン主義のようにフランス文化の影響がみられ」という異様に細かい知識はないほうがいいですね。メキシコがどれだけ影響を与えたのか書けるかにかかっています。

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(わたしの解答例)
【1】ア 中心都市のもとに多くの都市国家を支配下におき、神権政治がしかれた。神殿・ピラミッド・太陽暦・神聖文字や記号にあたるキープがあり、道路・灌漑の設備がととのっていた。金銀青銅の器を製作したが鉄器・犁・車輪・大型家畜は知らず、土掘り棒でトウモロコシを栽培した。イ 貨幣地代にたよる封建領主の収入が減り、農民の地位を上昇させた。西欧に商工業の発展、東欧に農場領主制を生み、西欧資本主義が形成される。ウ この経営の利益や労働力の奴隷と奴隷貿易による利益もプランターや商人に資本蓄積をもたらし、生産した棉花は工業化の原料となり、生産地は市場にもなった。こうした条件整備が産業革命=資本主義確立の要因となった。
【2】ナポレオンがイベリア半島に侵入したため、その植民地で独立運動がはじまる。ハイチでは黒人の反乱がおき独立し、それと共に奴隷解放運動も始まった。この運動に神聖同盟が干渉する気配から、米国はモンロー宣言を出して独立を援護した。また米国はメキシコ領のテキサスを併合すると、米墨戦争となった。メキシコは広大な土地を失なう。フランスはメキシコに出兵し植民地化をはかったが失敗する。米国は世紀末にパン=アメリカ会議を開き資本の進出をはかった。米西戦争ではキューバを支援して独立と同時に保護国化した。さらにパナマをコロンビアから独立させて運河を大戦直後に完成した。またメキシコで革命がおきると軍事干渉もしている。
【3】孫文。19世紀末、清仏戦争・日清戦争に敗北して、従来の册封体制にあった周辺国との関係が切れていき、中国本土が租借地・勢力圏で分割していく危機の中で、革命組織をつくり何度も蜂起して革命の機会をうかがった。三民主義を唱えて革命組織の団結にも成功し辛亥革命の結果、清朝は倒れ中華民国を建国した。しかし軍閥割拠の状況に革命組織を再建し、民族自決・反帝国主義運動が世界的に起きていく中、五・四運動を契機に公開政党の中国国民党を結成し新三民主義を唱え、ソ連とも協力して北伐の準備をととのえた。なんども失敗しながら挫けず、長くつづいた皇帝と王朝の歴史を終わらせ、民主的な新国家の理想像をかかげて奔走した生涯は尊い。