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世界史教室

大学受験生のための世界史問題解説

過去問センターワンフレーズ論述参考書疑問

東大合格への世界史-1

山下厚『東大合格への世界史』データハウス

長所
 1 東大の問題に特化している
 東大の問題にしぼって、これだけ東大の問題に真剣に取り組んだ参考書は他にない。論述の参考書といえば、東大の問題はわずかにしか扱わないのが普通で、どこの大学のものであれ、いかに論述のテーマを「網羅」するかに苦心しているものが多い。その点では、この本の東大に特化した取り組みは評価したい。「東大」の名前を冠すれば売れるという流行にのっているのでしょうが、この意気込みは評価します。
 2 過去問の必要性を説いている
 p.7で予備校の模試のクオリティの低さということを指摘していて東大の過去問をやるべきだと言い、さらに「東大の問題は言いたいこと書かせたいことが読み取りやすい」と言う。この読み取りやすい、というとらえ方にわたしは賛成しないし、この読み取りが実際には著者にできていないことを以下に証明しますが、しかし、過去問の必要性を指摘している主張は正しい。模試で良い点をとったことをp.4で誇っていることと矛盾するものの、p.7の主張は良いとおもいます。
 3 年号(年代)の必要性を説いている
 p.25に、世紀を指定して論述させることの多い第1問では必要な勉強のひとつだ、と。

短所
 短所は1.「日本語力」のあいまいさと矛盾、2.問題分析の誤り、3.世界史の知識が欠けていること、の三つです。この順で説明します。

 1.「日本語力」のあいまいさと矛盾
 このごろは斎藤孝を代表として、「力」という字をくっつけて、○○力というものがさも存在するかのように喧伝することが流行っていて、それにのっかった表現をこの本も使っています。実にあいまいなことばなのですが、一応、このことばのもつ意味を探ってみます。
 この本の副題に「日本語力で解く論述テクニック」とりあります。この日本語力とは何か? どこにも定義したところはないのですが、「本書の特徴」の中で、「文章構成も得点に入る……的確かつ簡潔な表現力……適切な指示語の使い方や、センテンスの具体度・抽象度、史実の正確な因果関係の把握などを意識して論述する必要がある」と説いています。こういう説明からは「日本語力」に、けっこう幅広い意味をもたせていることがうかがえます。

 p.12では、因果関係のあるものは、はっきりと読んでわかるようにすること!接続語を正確に使おう──と説いています。この因果関係をはっきりさせる、ということは何も「日本語力」と呼ばなくても文章として当然あるべき論理です。

 p.13では、簡潔な日本語を書くことで文章が締まり、字数内に入れられる情報量も増えるのだ、と。これはたいていの文章入門書に書いてあることがらです。
 それよりここにあげてある解答例にへんなところがあります。前にあげた(p.11)答案例を批判しながら「改善された」と誇っている答案、「政治面では、東ヨーロッパがテマ制を基盤とした中央集権体制をとったのに対し、西ヨーロッパでは古典荘園を財政的基盤とした、地方分権的な封建制度がとられた。一方経済面では……」と。「テマ制」は軍事制度(軍管区制)で、「古典荘園」は領主と農奴の経済関係を表す語句です。「対して」になっていない。これはむしろ、自作農兵と封建領主を戦士とする東西のちがいなら「対して」になります。「財政的基盤……一方経済的」も重複していて、「対立軸(ものさし)を明確に整理した形で書く」と強調しておきながらできていません。

 p.14の答案例に対して、「的確に表現できないという壁に直面している受験生は多い(予備校の東大模試では大して減点されないので、本番で痛い目に遭ってしまうようだ)」と、さも採点を知っているかのような口振りで書いています。しかし模試だけでなく、社会科学の文章は、内容が第一に大事なのであり、表現力を見る試験ではないから、これは強調するほどのことではありません。社会科学では何より正確な事実が書いてあることが第一であり、表現は二の次です。「的確な表現」ということであれば、その重要性は何も世界史にかぎったことではありません。

 p.15~16に「交通の発達で西欧農業社会が活気づいた」は「で」が一原因だけの表現になるから、「あいまって」という言葉を使えばいい、と説いています。そうすると「交通の発達とあいまって西欧農業社会が活気づいた」という文章の方が良い、という訳です。どれほどのちがいがあるのでしょうか? 交通の発達は修道院がこの頃さかんに整備したことであり、橋の建設もあり、それは市場拡大につながるのであり、これと「あいまって」正しいと採ってくれる可能性もあります。著者が書いた下の解答例では農業社会と結びつけては書いておらず、「社会全体が活性化」と書いています。逃げた感じです。それより、「荒地の開墾が進み、大開墾時代を迎える。それでは、11世紀の大開墾時代におけるいかなる発展が(なお、こういう問題は東大の過去問にありません)」と問うた問題であれば、なぜ三圃制や重量有輪犁や水車・風車などの具体的な技術発展の説明が解答にないのか不思議です。内容がなければ表現力などちっぽけなものです。

 p.20に「ある事柄を並列するときは、いきなり具体的な史実から入るよりは、読み手にわかりやすく、歴史的意義を含意するような抽象的なセンテンスで始めよ」と説いています。その模範解答例として「鉄道や汽船などの運輸手段の発達は、世界各地を国際分業体制のもとに結びつけ、西欧列強によるアジア・アフリカの植民地化に寄与した。例えば、1869年のスエズ運河開通は、西欧列強のアジア進出を容易にし、(以下略)」とあります。しかし、この解答は問題文にすでに書いてあることをまとめているだけです。2003年のこの問題の本文は、

 私たちは、情報革命の時代に生きており、世界の一体化は、ますます急速に進行している。人や物がひんぱんに往きかうだけでなく、情報はほとんど瞬時に全世界へ伝えられる。この背後には、運輸・通信技術の飛躍的な進歩があると言えよう。歴史を振り返ると、運輸・通信手段の新展開が、大きな役割を果たした例は少なくない。特に、19世紀半ばから20世紀初頭にかけて、有線・無線の電信……一方で、世界中で共有される情報や、交通手段の発展によって加速された人の移動は、各地の民族意識を刺激する要因ともなった。
 運輸・通信手段の発展が、アジア・アフリカの植民地化をうながし、各地の民族意識を高めたことについて、下記の9つの語句を必ず1回は用いながら、解答欄(イ)を用いて17行以内で論述しなさい。
  (指定語句)スエズ運河 汽船……

 このように導入文ですでに書いてあることを一々説明する必要はありません。「植民地化をうながした運輸手段としてスエズ運河は……」と書き出しても一向に構わないはずです。「読み手」がすでに提示している問題の大前提を書いて「読み手」=作問者・採点官が納得するのでしょうか? 何も知らない相手に対して説明しなくてはならないのなら、抽象的センテンスから始めてもいいですが、これは問題の解答としての文章であることを忘れているようです。文章にこだわる現代文の教師同様、なにか万人に分かるものでなくてはならないと勘違いしているのです。こういうテクニック(?)や一般論は要らない。それにどの問題にも一般→事例、というパターンが適用できるわけでもありません。

 「日本語力」でこの著者が言おうとしているのは、けっきょく論理性のことです。因果関係、抽象から具象へ、ということは何も「日本語」力という言い方で言わなくてもよい。論理性のある文章を書け、と言えばよい。それなら、なぜ論理性のない解答をたくさん載せている参考書を推薦しているのか(p.3、p.34)理由が分かりません。後の解説で比較のことを書いているのですが、論理にかんすることはこれくらいです。軽いですね。関係・影響・意義はどう書くのか、この参考書では分かりません。歴史的意義ということばをよく使っているのですが、それはどうい風に書くことなのか説明した箇所はみつけられませんでした。
 ただ、p.7では「優れた文章」という言い方もしています。日本語なり文章なりに何かこだわりがあるようです。『45か条の論題』という参考書の序文にも、「優れた文章力を養うことも不可欠です。優れた文章力を身につけるには、文章を書く訓練を繰り返すことが必須の要件となります。逆に語れば、文章を書く訓練を重ねていけば、必ず文章は上達します」と。何か文章力がものすごい力を発揮するかのような言い方です。
 なんと的はずれなことでしょう。文章が大事なはずの文学作品でさえ、第一に審査されるものは何かといえば、内容(面白さ)であり文体・文章のありようではない、いちばん考慮されない事だと審査員が書いています(若桜木虔著『プロ作家になるための四十カ条』ベスト新書)。意外なことかも知れませんが、こう説明しています。
 「表現をチェックするのは最後の最後の段階でよく、もし応募の期日が迫っていたら誤字チェック以外の表現の手入れなどは行なわなくてもいいくらいに考えておくべきである」(p.24)と。まして受験の文章は75分の中で書ききらねばならないのであり、問題の要求にいかに素直に応えられたか、にかかっていて日本語力でも文章力でもないのです。この参考書の最大の欠点は問題のつかみ方がいかに重要か指摘していないことです。答える側の受験生の文章力ではなく、まず問題ありき、という出題者側・問題そのものに注意がいっていないのです。それを以下で説明します。

 2. 問題分析の誤り
 問題の要求をつかめなかったらアウトです。その答がどれだけ華麗な日本語で書いてあってもゴミです。問題の読み・分解がしっかりできることが、解答の90%を左右します。
 この参考書は問題をあげた後に、「講評」というあいまいな文章がかならずくっついています。その後に「文章構成」というのが来ます。「講評」のところは問題の要求が何かをハッキリさせるというはずのものですが、たんなる問題への感想文をつづっています。その後にいきなり「文章構成」が来る、という点にこの参考書の欠陥が表れています。しっかり問題の要求をつかまなかったら、あとどのような文章を構成しようと無意味になるのです。こうしたまちがいの他の例としては、ブログにもあります(下のURL)。問題そのものが読めなかったら、どんな解答をつくろうと無駄です。
http://blog.sasakitoru.com/theme/863e900e9c.html

問題を読み誤った例1
 p.41の(a)西欧諸国と中国の1世紀間の通商の推移、(b)イエズス会と洋務運動にみる文化受容(1989年度)という問題の解答について。
 (a) 「通商の推移」という経済史の課題に対して、清朝とイギリスの思想(儒教的中華思想・主権国家体制に基き平等互恵を目指した対外貿易の主張)という要らないことを書いています。2~3行目は解答になっていますが、その他に書かなくてはならないのは、18世紀末のところでアヘン流入・銀流出をまず書いておくべきで、アヘンのことを19世紀になってから書いています。戦争の結果としての5港開港と公行の廃止はいいのですが、書いてある「綿織物」は売れるようになったのどうか、アヘンは2つの戦争の結果どうなったのか、銀の流出は止まったのか、関税自主権はどうなったのか、「通商」に関することがまったく書いてありません。これでは「推移」が分かりません。外国公使・総理衙門・対等外交とつづっていますが、これは要らない外交関係の変化です。「通商」という課題をはずして、外交の変化を書け、と問われたかのような問題としてとらえた拡大解釈です。問題を忘れて、この解答例に題をつけてみてください。通商の推移、という題になりますか?
 (b)これは2つの文化受容の共通点を課題にしています。「態度の特徴」とは16世紀と19世紀の西欧文明にたいする対応ですから、ちがう時代とちがうものが入ってきていながら、それを受け入れる中国人の態度に共通性がある、それは何かと問うている問題です。しかし解答例はこの共通した態度について書いていません。前半のイエズス会の説明はこれでいいですが、後半の洋務運動を「洋式軍隊の編成など、皮相的摂取にとどまり、伝統的な中華思想……儒教倫理……外来文化を受容」と書いています。前半と後半の共通点はハッキリしません。「技術導入」というかんたんなことに共通性があるのであり、最後の文章に書いてある「この時期」ということに限定した表現が、共通性を問われていることが分かっていないことを示しています。まして「外来文化を受容」というあいまいな文章では答えにならない。だいたい洋務運動を「洋式軍隊の編成など、皮相的摂取」というのではあまりにも皮相的です。こんなちっぽけな運動ではありません。詳説世界史なら「おもな事業としては、兵器工場・紡績工場や汽船会社の設立、鉱山開発や電信事業などがある」とあり、著者の好きな東京書籍では「兵器・紡績・造船・製鉄などの工場を建設し、鉄道の敷設や鉱山の開発をすすめ、また洋式軍隊を編成する」と書いています。中国にとっての機械工業の開始です。皮相なんてとんでもない。

問題を読み誤った例2
p.44の2005年度の、第二次世界大戦に生じた出来事が、いかなる形で1950年代までの世界のありかたに影響を与えたのか、という課題の問題です。「講評」では無意味な感想が書いてあり、次に「指定語句の使い方」に入っています。そして「具体例と抽象的センテンスとの強弱の使い分け」などと説教をするより問題が何を問うているかを見つめた方が大事でした。問題が読み取れなかったことは下線なしの解答例で明らかです。この解答のまずさは第二次世界大戦の出来事に下線を引いてみると明らかになります。大西洋憲章(指定語句)、ヤルタ協定、アウシュヴィッツ(指定語句)と三つしかありません。指定語句にあるようなことに後ひとつ加える程度では、もう解答として落第です。指定語句は戦後に関することがほとんどだから戦中の出来事を探すことも課題なのです。いや戦争中のことも書いてあると、次の文章を指摘するかもしれません。「大戦中の米ソ対立」……しかし具体例はあげてありません。「大戦中に対立していた独仏両国」は史実に合いません。フランスは早い段階で占領されドイツに従属していました。レジスタンスを書くのなら別ですが、それは書いてありません。この問題は「第二次世界大戦の出来事→戦後の影響」とつなげるのが課題ですから、第二次世界大戦中のことが書いてないとリンクができません。拙著『世界史論述練習帳 new』のp.75~78にこの問題の解き方と解答例がのっています。

問題を読み誤った例3
p.54に2003年の「運輸・通信手段の発展が、アジア・アフリカの植民地化をうながし、各地の民族意識を高めたことについて」という問題。
 この問題も文章構成で差がつく、と言いながら問題をまともに読めなかったために半分しか答えにならなかった。この問題は、1「運輸・通信手段の発展が」→植民地化をうながし、2「運輸・通信手段の発展が」→民族意識を高めた、この二つを書くことが課題です。このうち2が書けていないのです。
 初めの文章はこの著者からすれば、抽象→具体、という順で書くのには欠かすことができないのでしょうが、無駄な文章です。「鉄道や汽船などの運輸手段の発達は、世界各地を国際分業体制に結びつけ、西欧列強によるアジア・アフリカの植民地化に寄与した」という文章です。これはすでに問題の導入文として書いてあることであり、これだけの字数をつかって書く必要がどこにあったのでしょう? 導入文はこうです、

 ……情報革命の時代に生きており、世界の一体化は、ますます急速に進行している。人や物がひんぱんに往きかうだけでなく、情報はほとんど瞬時に全世界へ伝えられる。この背後には、運輸・通信技術の飛躍的な進歩がある……これらの技術革新は、欧米諸国がアジア・アフリカに侵略の手を伸ばしていく背景としても注目される。……運輸・通信手段の発展が、アジア・アフリカの植民地化をうながし、各地の民族意識を高めたことについて、下記の9つの語句を必ず1回は用いながら、解答欄(イ)を用いて17行以内で論述しなさい。

 「運輸手段は、例えば……」といきなり書いていいのです。課題はこうした実例を求めているのであり、作問者と同じ考えを解答にわざわざ書いてから実例に入る必要性はありません。こういう文章構成を薦めることになんのメリット(得点)があるのでしょうか? この抽象を書いたために、運輸手段による実例は、スエズ運(「河」という字が欠けている)だけしか実例があげてありません。また通信は「植民地経営の効率化」という抽象的な内容にとどまっています。この中に「メッカ巡礼者を激増させ、イスラーム改革運動を広めた」という文章が入っていて、これは民族運動側のはずなのに、西欧列強による植民地化の例としてあげてあります。なぜ? また巡礼の増加と改革運動を広めたことの因果関係が説明してありません。
 それより、「一方、アジア・アフリカの植民地も、運輸・通信手段の発展を背景にナショナリズムを高揚させていく」という、またまた問題文に書いてあることのくりかえしは無駄な文章です。問題文の言い換えで得点になるとおもっているのでしょうか? 「運輸・通信手段の発展を背景に」とありながら、この後に、この実例が書いてありません。「鉄道……半植民地化させた中国」はまだ列強の進出を書いています。「義和団が蜂起した」と書いてありますが、いったい義和団はどんな運輸・通信手段をつかったのでしょうか? むしろ半植民地化に抵抗している、と言いたいらしく、それでは手段をつかったことにならない。後は「通信手段の発達で」イラン立憲革命、青年トルコ党革命につながった、という場合の通信手段とは何なんでしょうか? 電話? 新聞? 「民族自決の原則がナショナリズム……ガンディー」とあればガンディーは運輸・交通手段をつかわなかったのでしょうか? 
 実に具体例に乏しい解答です。これは1976年度と1982年度の資料文に解答があります。それを元にしたわたしの解答例と比べてみて下さい。

(わたしの解答例)
この時期の鉄道は欧米の金融資本家が投資して全世界に敷設していった。鉄道は植民地の市場を開拓し、原料を港湾に運んだ。また反乱が起きれば迅速に鎮圧軍を派遣できた。義和団事件に対する8ヶ国出兵がその例である。西アジアではバグダード鉄道、中国東北のシベリア鉄道がしかれた。後者の鉄道で運ばれたロシア兵が日露戦争を戦った。しかし植民地化された諸民族は、鉄道を利用して孤立していた地方をつなぐ全国的な活動をおこない、ときに鉄道を破壊して支配者の行動を分断した。汽船は第二次産業革命による大量の商品・原料を運び、そのためにも欧米はアジア・アフリカの港湾を整備した。植民地の側は、汽船によって知識人は留学・亡命し、イスラム教徒はメッカへの巡礼が容易になりメッカは抵抗運動の情報発進地となった。黒人たちはキリスト教徒としての連帯を実現するため世界各地で集会を開いた。スエズ運河・パナマ運河はこれを可能にした。モールス信号の有線電信からマルコーニの無線電信へと通信手段が発展し、世界各地の市場価格・反乱情報を伝えた。民族運動を伝える新聞や書籍がアジアで発行され、イラン立憲革命は王朝の腐敗・無能をあばき、ガンディーの全国的運動を可能にした。

問題を読み誤った例4
p.60の「19世紀から20世紀はじめに中国からの移民が南北アメリカや東南アジアで急増した背景には、どのような事情があったと考えられるか、また海外に移住した人々が中国本国の政治的な動きにどのような影響を与えたか」(2002)という問題の読み誤り。
 まず「19世紀から」とあるのに、p.63の解答には「中国では宋から明にかけて」と時間枠をはみだした解答からはじまっています。これは導入文(「宋から明にかけて」)にも書いてあることです。こんなコピー文は要らない。この後のことがらはみな欧米側の事情ばかり書いていて、解説では、プッシュ・プルという用語をつかって解説しながら、プッシュ要因はまったく書いてありません。中国を主とした問題なのだから、中国側の事情を書かなかったら半分も得点があるかどうか危ない答案です。せいぜい中国側にあてはまるのは「香港が密航の場」くらいでしょうか。これとてイギリス側のものです。また反帝国主義という文脈で孫文の中国同盟会を書いていますが、孫文が「20世紀はじめ(1905年の会結成時)」に唱えていたときの(旧)三民主義の民族主義はまだ駆除韃虜(清朝打倒)が第一の目的であり、これが実現できないと、利権回収もままならないと読んでいたのです。清朝が倒れた後の第一次国共合作(1924)のときになって明確に反帝国主義の民族主義を訴えます(新三民主義)。新旧三民主義の説明があるのは詳説世界史です(「連ソ・容共・扶助工農」をかかげて、打倒軍閥・打倒帝国主義の政策をめざした──旧版の注に「新三民主義ともよばれる」とあります。東京書籍には本文であれ、注であれ、この説明はありません。新版平成19年版には「反軍閥・反帝国主義という国民革命の方針を明らかにした」と記述が加わりました)。
 問題の要求を反映した解答をつくることに撤しないと、不合格確実な道が開かれます。日本語力というスタイルが何の役に立つ?

問題を読み誤った例5
p.64の米ソ中の1920~40年代の国際的地位の変化、という問題(1971)。課題は「国際連合の成立の時期に至る」と時間の限定をしているのに、解答では、マーシャル=プラン・米ソの2大国化と時間の土俵をはみだしています。なによりまずいのは、中国の台頭に関して末尾で会談の参加しかあげてなく、どう「国際政治や国際経済の上で、大きな変化が起こり」という中国についての課題が果たされていません。p.65では「英仏の衰退が中国の相対的地位の上昇になる」と書いていますが、これでは中国自身のすがたが見えてきません。それに英仏両国でなくても、英国が第二次世界大戦の指導的な国のひとつであったことはだれも否定できないでしょう。主要な会談に英国が参加しなかったことはありますか。戦間期から戦中にかけた中国の「地位上昇」になる何らかのことを書かないと得点はないですよ。
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