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世界史教室

大学受験生のための世界史問題解説

過去問センターワンフレーズ論述参考書疑問

工藤のセンター世界史B・ワナ攻略法101連発

参考書 センター試験

工藤章男著『工藤のセンター世界史B・ワナ攻略法101連発』文英堂

 センター試験の勉強は世界史全体だから、まず全体を勉強してから過去問にあたる、という順で勉強しようとしている受験生がいます。それも教科書をまとめたり、詳しい講義用の参考書を買って読んだり、過去問の何十年分も集めた問題集をやったり……と時間の無駄じゃねーの、とおもえることをえんえんとやりつづけて、いざ試験では大した点数はとれず、失敗した、と嘆いている学生を毎年みることができます。
 失敗しているのは勉強法にあるのに、気がつかない。
 センター試験はなにより正誤問題なのに、正誤問題という独特の性格を無視して、ひたすら流れが分かれば、良い成績がとれるはずとおもって、流れの参考書を読んで安心しています。だいたい、たいていの参考書にはどの部分が正誤の対象として問われるかは一々書いてないものですよ。それに赤字にしてある用語がセンター試験に必要なのか、私大に必要なのかの区別もなく、赤字にした根拠も示されていません。それなのに、何冊もある参考書を読み、部厚い問題集を解いて、きっと解けるハズと皮算用をしてしまう。
 成果のあがらない勉強法に染まっているなあ、と感心してしまいます。
 また安直な問題集をやって安閑としてるものもいます。わずかな過去問を解説しただけのもので、穴だらけ、つまりある年度の一部の問題をとりあげて、網羅性がないのに、それでその時代の全部を説明したかのように装っている(受験生もそう勘違いしてる)問題集のなんと多いことか。
 そうした解説書や問題集の欠陥をいっきに吹き払ってくれるのが、この参考書です。

長所
1 センター試験の正誤にどう迫るかをこれほど的確に指摘した参考書は皆無です。試験の1週間前~1ヶ月前に勉強するとすれば、これを薦めます。

 実際、どれほど的確なものかは本文を見てみるのがいいですが、ロシア革命のところを少し抜粋して載せてみます。

(ワナ攻略演習) それぞれの文章の正誤を判定せよ!
〔1〕マルクス主義の影響が広まると、プレハーノフらの指導のもとに、社会革命党が結成された。[94本]
(誤)政党の混同をねらうワナ。ロシア社会民主労働党が正しい。社会革命党はナロードニキの流れをくみ、農村を基盤としており、都市労働者を基盤とするマルクス主義政党ではない。

〔2〕第一革命をきっかけに、国会(ドゥーマ)が閉鎖された。[97B追]
(誤)史実を逆転させるワナ。皇帝ニコライ2世は十月宣言で国会(ドゥーマ)の開設を約束して、翌年国会が開設された。

〔3〕レーニンは、第一次ロシア革命の渦中で四月テーゼを発表し、ソヴィエト権力の樹立を訴えた。[95追]
(誤)混同をねらうワナ。レーニンが四月テーゼを発表したのは、1917年の三月革命ののちのことであり、1905年におきた第1次ロシア革命とは無関係である。

2 これほど過去問研究をしっかりやった上で、ポイントを提示した参考書もそうそうありません。上の実例の問題集の末尾に[94本]~[95追]とあるように、何年度の問題から引用してきたかが示してあります。いや、どのセンター試験用の問題集にも年度くらいは書いてあるよ、というひとに対しては、それはたんに数年にすぎない問題の引用をしているだけでしょう? と問い返します。しかし著者は過去問全部のデータを網羅しています。
 序文の中で、

筆者は共通1次試験時代からセンター試験までのすべての文章をパソコンに打ち込んで分析しました。この本はその膨大なデータが生んだ成果なのです。

と書いていますが、これはホントは稀なことなのです。みなさんが本屋で見る参考書のほとんどは、過去問の研究の成果とおもっているかも知れませんが、それは早とちりか、本の帯に書いてある宣伝文句にすぎず、中身を検討したら実はたんなる勘にすぎないのです。それは参考書の赤字の部分を検討すればハッキリします。これは『ナビ』でも『名人の授業』でも『実況中継』でも、そのいいかげんさは確かめられます。が、そこまでは受験生は追跡できないとしても、この著者のようにデータを打ち込んでいる教師の場合は瞬時でそのウソ、ワナが分かります。ああ、これはセンター試験向きにワナの見分け方を説明している本なのですが、おおくの参考書のワナを言外にあばいている本だともいえます。
 わたしのように他人の参考書の批判を大っぴらにのせると、職業倫理に反すると何人かのひとに言われたり、書かれたりしましたが、どんなに言われても理解できない倫理です。まちがいを指摘することがなぜ倫理に反するのか? 黙っとれ、というのが倫理のようです。まちがいと分かっても言うな、放置せよ。受験生にまちがいを教えてもいい、そっとしとけ。著者が気がつくまで静かにしとき、その間、受験生がまちがえたって分からへん。だれも責任はとらん社会じゃ。この世は化かしあい、化かしあいをしましょうという倫理らしい。う~ん、実にすばらしい世の中をつくる倫理ですな。暴きがいのある謎の社会をつくりましょう。この参考書のワナの仕方も学ぶ価値がでてきます。センター試験作問者のワナはいかに作られているか、特とわたしも勉強させてもらいます。
 この小著、いや200ページちょっとしかありませんから、こう申させてもらいますが、なかなか含蓄のある参考書です。人間のだましの多種多様な世界がここに開示されているからです。

3 上にあげたわずかに例で気がつきましたか? 誤謬にかんするかんたんな解説は教科書の中の必要不可欠な部分を網羅していることです。教科書の全部がセンター試験に出るのではない。実際に出題された問題文から教科書を読み直すといいですよ。この参考書を利用して、用語集も地図も資料集も問題集もつかわず教科書を理解しなおすつもりで読むといいです。時間順で書いてありますし、東アジア・南アジア・東南アジアと地域の区別もしてあります。ある程度、これで流れも分かります。

短所
 網羅性が完全ではないことです。ないのは先史・アフリカ史の古いところ(クシュ王国・モノモタパなど)・太平洋(オセアニア)史などです。もっとも他の参考書とて書いてない部分でもあるので、この参考書だけの欠陥とはいえないものです。この著者と出版社にはこれをもっと拡充した改訂版を期待したい。