世界史教室

大学受験生のための世界史問題解説

過去問センターワンフレーズ論述参考書疑問

欺史作家の『日本国紀』-1

欺史作家の『日本国紀』-1
 一例をあげる。p.327「近代化に大きく貢献した……30年足らずで人口を約2倍に増やした」と書いている。これは『日本国紀』以前に書いた『今こそ、韓国に謝ろう』飛鳥新社にもっと詳しく、次のように述べている(p.47)。 

なんと、朝鮮半島に人口爆発をもたらしてしまったのです。

 併合時、朝鮮人の人口は約1300万人余りでしたが、1942年には2550万人以上にまで膨れ上がってしまいました。ちなみに江戸時代の日本は、260年間かかっても、人口は3倍にも増えていません。わずか30年足らずで約2倍の人口増加というのは世界の歴史でも珍しいことです。
 ……人口の増加も平均寿命の伸びも、自然に起こったものではありません。これらはすべて日本のお節介によって、人為的に引き起こされたものです。

   『今こそ、韓国に謝ろう』ではこの人口増加を誇って何度も言及していて(p.10、146〜149)、さも日本が善政をほどこしやったおかげである、と力説している。
 この「作」家は統計を読むことができず、調べもせず、でたらめな偽説を述べるいる。
 数字の根拠をあげていないが、根拠になっているのは『朝鮮総督府統計年鑑』で、その後の研究も含めて分かっている数字が以下のもの。

f:id:kufuhigashi2:20190709144112p:plain

『日本国紀の植民地支配─肯定・賛美を検証する』岩波ブックレット p.31

  「併合時、朝鮮人の人口は約1300万人余り」で、「1942年には2550万人」なら「約2倍」は正しいが、その前に1906年の統計もあり、978万人となっている。つまり1906年から1910年(併合の年)までに335万人増え、1910年から1915年に1596万人になっていて282万人増え、1915年から1920年には1692万人で、増えたのが96万人であり、その後も増え方は100万人前後で、要するに増え方が鈍っている。1906年から1915年までに増えたのが618万人であり、ここが異常なのだ。併合前と併合したばっかりのときが増えすぎていて、「何か変」とおもってもいい数字である。
 表で注意すべきは「男女比率(女100に対する)」という部分。1906年の男女比は女100にたいして117となっていて、不自然な数字である。女を相当数を数えなかったための調査の不備である。だんだんと調査の精度をあげていき、男女比102の比率になったのが1940年の数字だ。
 このように欺史作家がいう「日本支配が人口増加を与えてやった」との主張は怪しい。人口増加説はすでに論破されており、「作家」が無知なだけである。
 上の表をあげた『日本の植民地支配―肯定・賛美論を検証する』 (水野 直樹, 駒込 武他、岩波ブックレット、2001年出版)が何よりの論破である。またscopedogさんのブログ(http://scopedog.hatenablog.com/entry/20081012/1223815346)では、同時期の日本人は1910年が4818万人で、1940年が7193万人。朝鮮と似たような増加率。中華人民共和国の1950年は6億人、2000年は12.7億人になっていて、中国共産党の「善政」であったようだ、とある。
 また「データで見る植民地朝鮮史」
http://www.wayto1945.sakura.ne.jp/KOR10-population.html
でも詳しく説明している。
 欺作者が「約2倍の人口増加というのは世界の歴史でも珍しいことです」というなら証明してみてほしいものだ。最近の言動からは、「証明」なんてさらさらしないだろう。
 また「人為的に引き起こされたもの」というのなら、それを証明する計画書を示してもらいたい。もちろん増加は日本が意図したから増えたわけではない。当時の日本が考えていたのは増加でなく「朝鮮民族の数は少しずつ減少させることが適切である」で、これは「朝鮮統治施策企画上ノ問題案」という文書にある言葉。貴族院で昭和19年11月18日に企画したもので、確かめたかったら、国立公文書館アジア歴史資料センター(http://www.jacar.go.jp)、レファレンスコードB02031286000 の36枚目以降を見よ。ナチスのユダヤ人絶滅計画ほどではないが、周到な減少計画であった。計画の一部は実行している。しかし増加したので減少政策は失敗した。欺作者が誇る「人口増加」は成功例でなく、失策の証明になっている。