世界史教室

大学受験生のための世界史問題解説

過去問センターワンフレーズ論述参考書疑問

新作論述問題

 
 太平洋戦争と現行のウクライナ戦争の共通点と相違点を述べよ。その際、次の語句を1回は使用せよ。全部で500字以内で述べよ。
 
 満州国 石油 クリミア半島 常任理事国 NATO プロパガンダ 枢軸国  

 解答例
共通点は、ともに広大な土地をもつ隣国に侵略したこと、それは当時の第一次大戦と第二次大戦後の国際秩序を力で現状変更を迫る暴挙であること、戦争の始まる以前に一定の成功例があり、それを拡大した点でも共通している。満州国の樹立、チェチェン・クリミア半島侵攻である。侵略国が短期に征服が可能と誤算した点も似ている。また両国は、侵攻を戦争と呼ばず、内外の批判にたいしてプロパガンダを駆使して戦争を正当化した。共に連盟常任理事国、安保理常任理事国でもある。世界を2極化した点でも共通している。枢軸国と民主国、旧共産主義の権威主義国と民主国の対立である。侵略された国々は他国の援助で対抗した点も共通している。中国は国共合作だけでなく欧米の支援を受け、ウクライナ側もNATO他の支援を受けて戦ってる。共に大量の戦死者・負傷者をうみ、各国の軍拡を促した。相違点は、プーチンはソ連を再現しようとしたのに対し、日本は過去に帝国はなく帝国形成の最中であった。石油を豊富にもつロシアにたいして、日本は石油を奪いにいった。日本は世界的な大恐慌に発する危機を大陸の支配圏拡大で解決しようとしたが、ロシアに経済危機はなかった。
………………………………………
 この問題はわたしの創作問題とは言いがたいもので、前田朗・明治大学教授が今年7月にされた講演「ウクライナ戦争と太平洋戦争」がヒントになっています。共通点が多いのですが、相違点は語られなかったので、わたしが追加しました。


(わたしの解答例)に書いてないこととしては、次のようなことも言えます。

共通点………………………………
侵略にたいする国際的な非難(リットン調査団/国連決議)
侵略する国の混乱(国共内戦/親欧と日欧の対立)を利用した
傀儡政権(南京政府/東部自治政府)の樹立
核の使用と使用危機

相違点………………………………
共産勢力の勢いがあった/共産勢力は衰えている
連盟脱退した/連合を脱退していない

 指導者について言及する方もあるとおもわれます。つまりプーチンと昭和天皇のことです。たぶんプーチンという独裁者と昭和天皇は同列におけないという考えがあるとおもいます。「天皇制ファシズム」は政治学者・丸山真男の造語ですが、ここに「制」という語句が付いていて、天皇個人に責任を当てはめていない曖昧な言葉です。これは丸山を含めて、戦争中に天皇がどういう役割を果たしたかが不明であったこと、というより勝手な推測で天皇は「象徴/人形」に過ぎず、戦争指導者ではなかった、という認識をしていたためです。これはマッカーサーの進駐軍も同じで、天皇は戦争に関わらなかったと信じていました。

 しかし現在は天皇の側近たちの著作・メモ・日記が次々と発表され、どういう主張・行動をしていたかが判ってきました。天皇の側近たちの記録が次々と出版されているからです。
 ①侍従長だった百武三郎の日記『百武三郎日記』2019年から閲覧可能
 ②内大臣だった木戸幸一の日記『木戸幸一日記』1966年
 ③軍令部総長だった永野修身の『大本営政府連絡会議議事録』2000年
 ④参謀総長だった杉山元の『杉山メモ』2005年
 ⑤宮内庁長官だった田島道治の『拝謁記』2021年
 ⑥侍従次長だった木下道雄の『側近日誌』2017年
 ⑦宮内省御用掛の寺崎英成の『昭和天皇独白録』1995年

 これらはみな戦後もだいぶ経ってから出版されたもので、戦争中の日本人、戦後の多くの日本人も、まったく知らなかった内容です。天皇は軍部の方針・作戦を17回も変更させており、これらの記録では天皇が軍のトップを叱りつけている姿も出てきます。詳しくは山田朗『天皇と戦争責任』(新日本出版社)の第二部「天皇の戦争指導」に書いてあります。一日おきに陸軍と海軍の軍令部長が天皇に会い、戦争の進捗状況を報告に来ていて、天皇は戦争の全体をもっとも知っている唯一の人物でした。この会見の際に、疑問を出したり、怒鳴りつけたりして戦争の動向を操ろうとしました。御前会議でほとんど喋らなかったのはポーズにすぎず、根回ししていて結論は天皇にとって自明でした。
 ということなので、プーチンと同列に置いても、わたしなら加点します。